【翻訳】Amazon にとっての「利益」

以下の文章は、Benedict Evans さんによる Amazon’s profits の日本語訳です。翻訳をご許可いただきありがとうございました。

The following is the Japanese translation of Amazon’s profits by Benedict Evans. Thank you Mr. Evans, for letting me translate your writing.


Amazon にとっての「利益」

Amazon を巡る疑問。それは、同社が利益を生んでいない、ということではなく、彼らにとって何が利益なのかが分からない、ということだ。

一見すると、この疑問は的外れに思える。なぜなら、事実 Amazon はまったく利益を生んでいないのだから。まず、このグラフを見てほしい。収益の伸びは凄まじいが、利益はゼロだ。

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より厳密な分析のためには、フリーキャッシュフロー、特に(季節要因からくる起伏をならす意味でも)直近12か月のフリーキャッシュフローに注目すべきだろう(それは Amazon が好んで使用する指標でもある。)。

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とはいえ、そうしてみたところでどこにも利益は見当たらない。実際、(他社と比較しても)ただでさえ少なかった純現金収支は、設備投資(ただし、それには2012年第4四半期に行われたシアトル本社ビル購入の14億ドル一括払いも含まれるが)によってほぼゼロに近い水準まで減少している。Amazon が自社ビジネスであげた収益の全てを、価格競争の原資、市場規模の拡大、設備投資などの形で、さらなる成長のための投資としてつぎ込んでいることは明らかだ。

これらの事実から、Amazon という会社についての見方が2つ出てくる。1つ目は、露骨な表現ではあるが、他社を圧倒できるようなシェアを得た時点で「スイッチを切り替える」、つまり、値上げと設備投資削減で利益をあげる方針に切り替える会社だ、という見方。

もう一つは、実際にはありえないのだけど、Amazon という会社が詐欺まがいだ、という見方。つまり、Amazon は利益ゼロ状態でしか成長できず、値上げと設備投資削減を行ってしまえば事業は失敗に追い込まれるし、株価の上昇が止まれば全社員が去っていくだろう、という見方だ。

確かに、Horace Dedui の指摘にもあるように、ビジネスモデルさえ変えれば利益があがる、なんてことはない。ただし、Amazon に限っていえば、別の見方もありえる。それは、Amazon の事業は一本柱ではない、という見方だ。

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このグラフは、Amazon が公表している収益の分布を示したものだ。収益は、発達度合いの異なる複数の産業、かつ異なるいくつものマーケットに及んでいる。おそらく、企業経営との向き合い方も Amazon の場合は異なっているのだろう。すなわちそれは、上述のような再投資の後に残るフリーキャッシュフローや純利益を重要視するやり方ではなく、各事業の本質的な成果を重視する、ということだ。

しかも、Amazon の違いはそこにとどまらない。なぜなら、Amazon の実態はもっと細分化されているからだ。同社内では、製品ラインの大半は国や地域ごとに責任者が置かれ損益が管理されている(皮肉なことに、社内の透明性は非常に高い)。うまくいかず撤退するものもあれば、始まったばかりのものもあるし、絶好調のものもある、といった具合だ。

一方、Amazon は常に新しい事業を生み出してきている。それらの新事業も開始時は、他社の新事業同様、会社にとってはお荷物だ。だからといって、利益をあげるために「スイッチを切り替える」ようなことを Amazon はしない。他の自社事業同様、ただただ規模を拡大し続ける。

これらが意味すること、それは Amazon の売上が以下の4要素の組み合わせから生み出されているということだ。

  • 新たな販路への投資
  • 「戦略的」低価格
  • 新事業運営での損失
  • 既存事業からの補填

要素の組み合わせ方がどうなっているか、外部から分かることは少ない。唯一分かることは、最終収益をゼロにすべく、損益計算書の最後に残る利益の全てをベゾス氏がこれら4要素に回している、ということだ。とはいえ、うち少なくとも2つの要素は、事業へのマイナスになったり戦略上の矛盾を生むことなく、金のなる木へと変わることができるわけだが。

あるいはこうも言えよう。Amazon とは、一つのプラットフォーム上に成り立つ無数のオンラインビジネス系スタートアップの集合体だと。うまくいってるものから集まる利益の全ては、生まれたてのお荷物たちに費やされていくのだ。

この考えについて、2つの類似例が思い浮かんだ。1つ目は GE。GE は自社の売上を念には念を入れて管理していたので、内部で何が起こっているかを第三者が把握するのはとても難しくなっていた。

もう1例はマルクス主義。カール・ポパーが指摘したように、マルクスの唯物史観が抱える問題とは、誰もそれを反証できないということだった。どんな科学理論であれ、反証にさらされる。その理論は正しくない、ということを示すような事象が起こりうるものだ。しかし、マルクス主義を反証しうる事象は存在しない。マルクス主義者はこう言うだろう。「革命の条件が適切でなかったのだ。しばし待て。そうすれば来世紀には革命が起こるだろう」と。

マルクス主義者の主張同様、「Amazon が何をどうしてるかは外部からだとよく分からないけれど、しばらく様子見してればいずれ利益を生む会社になるでしょう」という主張も疑わしい。というのも、その主張の正誤を確かめることなく、ただただ様子を見続けることになるかもしれないからだ。


初出公開: 2013年10月3日、 最終更新日: 2013年10月3日