「インターネットが負ける方に賭けるな」と仰ったのはかのエリック・シュミットさんですが、先日からネットを賑わせているGoogle Readerのサービス終了を巡る騒動を眺めていて、タイトルにあげたような一文が浮かんできました。
きっかけは、人気「あとで読む」サービスInstapaper開発者Marco Arment氏の長文ポストYour favorite Thursday sandwich – Marco.org。
GigaOMの創設者であるOm Malik氏のGoogle Reader終了に対する怒りの投稿に対して「これには同意できないな」から始まる長文、自分の「クラウド技術」との付き合い方を考えさせられる、とても厳しい内容でした。
じっくり読んでみたいなぁ、と思ったので、ついでに訳してみることにしました。ちなみに、タイトル直訳は「お気に入りの木曜のサンドイッチ」。検索してみると、「サンドイッチ屋の日替わりサンドイッチ、スペシャルは毎週木曜」みたいなことらしいです。日本語的に分かりにくいので、「特別定食」ってことにしておきました。
以下、全訳(脚注含む)です。
Below is a full translation of http://www.marco.org/2013/03/21/thursday-sandwich. Please email me at harupong @ gmail for any concerns.
お気に入りの特別定食
いつもならOm Malikには同意するんだけど、彼がGoogle Keep(Evernoteのパクリ)を使わない理由については同意できなさそうだ。
確かに、それはEvernoteよりいいものだって可能性もあるよ。でも、Keepは使わないだろうな。なんでか分かる?Google Readerだよ。
この7年間というもの、自分のオンラインでの時間は全てそれに費やしてきたんだよね。フィードバックも送ったし、情報のやりくりにも使ってたのに、Googleときたら精肉屋がニワトリを処理するかのようにサービスを終わりにしてしまったんだ。対話なんてないさ。ただ、おしまい。Google+より多くのトラフィックを生んでるサービスが、企業が掲げるあいまいな目的を達成できなかったとして犠牲になった。ユーザー(多くは長年の愛用者)にとってはたまらないよね。
そういった観点からすると、Googleがそのサービスをいつまでも生かしておくなんてとても信用出来ない。もし、何ヶ月もそのサービス使ってきたのに、突然Googleが「このサービスは目的を満たしてない」とか言い出したらどうする?
この業界では、長続きすることなんてどんなことでも期待なんて出来ないんだ。新しい、けど数年内に終了してしまうだろうサービスを避けてたら、結局全てのプロダクトを避ける事になっちゃう。数年以上長続きするプロダクトやサービスは例外であって、ルールではないんだ。
そして、ユーザーにとってはつらいことだけど、Googleが自分たちのプロダクトをどうするかについて、誰かに相談しなきゃいけないなんて話はまったくないんだ。企業は自分たちが思うように振舞っていいんだ。それがビジネス的に説明がつけば、別に明日Gmailを終了したって構わない。相談なんてきっとないよ。
ユーザーに権限なんてない。
Google Readerの終了について不満をつのらせ、なんとかしようとネットでの嘆願活動をどんどん始めてもかまわないけど1、僕らはみんな忘れっぽいし、タダって言葉にとても弱いよね。
彼らにガツンと知らしめてやりたい?Googleを使うのをやめればいいんだよ。一切合切全部やめちゃう。アカウントも削除して、代わりにBingを使えばいい。準備OK?
…
そういうこと、そこが問題なんだよね。あなたは準備できないだろうし、僕だって出来ないと思う。出来る人なんていないよ。
これってGoogleだけじゃないんだよね。みんな同じことやってるよ。Facebookはひどいプライバシー侵害や最低なデザイン変更を半年おきにやってくれるけど、ユーザーが騒ぐたびにちょっと変更を元に戻して、そしてみんなそれについて忘れちゃうんだよね。Facebook側は意図したことの多くを達成したし、ユーザー側は自分たちが尊重されていると感じて満足しちゃう。そもそも、TwitterがAPI利用者たちにひどい仕打ちをしたところで誰もTwitterを使うのを止めないし、Appleが話題になったアプリを承認しなくても誰もiOSを使うのを止めないし、行きつけの食堂で特別定食が値上げされたからって誰もそこに通うのを止めたりしないんだよ。
彼らがいじわる、邪悪だ、ってわけじゃないんだ。事業の責任者ともなれば、ときには誰かを怒らせるような決定も下さなきゃいけない。それこそが企業、そして政府、子育て、人生の本質だよ。FacebookやGoogleはあなたの個人情報をもっといっぱい収集し、長くサイトを使ってもらって収益をあげてかなきゃいけない。Twitterは自社のプロダクトをきちっと管理して、利用者の関心を第三者が作ってるアプリから遠ざけなきゃいけない。そうじゃないと、AOL Instant Messengerみたいな「利益を産まない間抜けな土管」になっちゃうからね。AppleはApp Storeを厳重に管理しないといけない。そうすればみんな安心してアプリを買える(そしてiOSデバイスも)し、開発者をAppleのルールに従うよう強制し続けることができる。健康保険料の支払いが今年10%あがったせいで、あなたの行きつけの食堂はお気に入りの特別定食の値段をちょっと上げなきゃいけなかった。食堂が契約してる保険会社は保険料を10%上げなきゃいけなかった。なぜって?それがこの街で許可されてる限度だったからだし、もしその機会を活かさなかったとしたら、保険会社のCEOはその理由をどうやって社内や株主に説明できる?
これこそがビジネス、ってこと。
優先順位低めな他のGoogleプロダクト同様、Google Keepもユーザーを獲得するんじゃないかな。つまりあんまり多くない、ってことだけど。2年以内には、きっとサービス終了しちゃうだろうね。そうなったら文句を言う人もいるだろうけど、そのときもきっとその人たちは無力だし、んでもって結局Googleを使い続けるだろうね、きっと。
ユーザーは自分たちの生活、仕事やその進め方が特定のプロダクト、サービスや企業にどっぷりと依存しないよう、そういったものをもっと懐疑的に扱うべきなんだ。
この業界では気流の乱れに備えなきゃいけない。クラウド時代(ここ、笑うとこじゃないよ)が進むに連れ、この点はより大きな問題になってくると思う。クラウド化するってことはつまり、第三者が提供する、自分のデータを手元に置かないようなサービスを利用するってことだからね。
いつでも一歩引いて構えておこう。すぐに抜けられるように準備しておこう。
別に悲観的になってるわけじゃないんだ。とっても現実的だし、投げやりでもない。
例えばGmailを使ってるとして、もし事前通知なしにいきなりGoogleがあなたのアカウントを閉鎖したらどうなる?(実際にある話だし。)もし常用してるGmailのIMAPサポートが突然打ち切られたらどうする?なんだっていい、もしGoogleがなんかひどいことしだしたらどうする?簡単にメールサービスを切り替えられそう?2仕事の進め方にどれほどの影響が出る?あなたのメールアドレス、@gmail.com
だったりしない?もしGoogle Waveにみんなして移行してたら、その後どうなってただろうね?もしFacebook Messagesが電子メールの代わりになったとしたらどうする?
オープンじゃない技術や基盤による支配(訳注:原文ではProprietary Monocultures)がずっと続くと、そこから逃れる術がなくなっていって、それはほんと恐ろしいことなんだよ。
だからこそ、大切なデータは出来る限り汎用・一般的・オープン(可能なら)なフォーマットで、自分がバックアップ含め自由にできる場所に保管しておくべきなんだ3。さらに、もしネット上で存在感を維持していきたいと思っているなら、自身を表現する場・環境を可能な限り自分で用意するべきだよね。
赤の他人が提供する独自システムにあまりにも長期に渡ってどっぷりと使ってしまうことがいい結末をもたらすことなんて滅多にないし、仮にひどい目にあったところで、それこそ自己責任なんだよね。
「クラウド」企業やオープンじゃないプラットフォームがなくなってしまうときって、まるで動力を失った飛行機みたいに真っ逆さま、全てが失われてしまう。一方、Dropboxがなくなるとしたら、それは動力を失った電車みたいなものだと思う。止まってはしまうけど、何も失われずみんないつもどおり。ちょっと不便になるってくらいのものだよ。
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ネットでの嘆願活動が変化をもたらしたことがあったか?(ざっくりとした「世にしらしめることが出来た」ってのはなしね)。↩
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これこそが、僕がGmailを使わない理由。↩
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Dropboxを使うのは問題ないと思ってるよ。きちんとした慣行にのっとって作られてるからね。Dropboxがなくなっても手元にデータは残るし、コンピューター間でファイルを同期する術なんていくらでも見つかる。仮にDropboxが暴走してファイルを全部消しちゃったとしても、バックアップから復元すればいい。どうせファイルとフォルダなんだから。↩